「オープン直後にまさかの販売停止。怒涛の三か月でした。」創業百年の魚卸マルイリがECに挑む#1

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#EC事業#新規事業
ザキさんのプロフィール画像
山崎 啓輔(ザキさん)

昨年9月11日昼過ぎ、敬老の日の販売ピークを前に、焼津港丸入商店は急遽、楽天モールでのインターネット販売を停止。

このとき、丸入商店広報/株式会社マルイリフードサプライ直販・飲食事業部の久保真也さんは直感します。

「発送業務をなんとかしないと、大変なことになる。」

すぐに各現場で働く同僚や外部パートナーと連携を始めると、久保さんはじめとするマルイリの、怒涛の三か月が始まりました——。

これからトライする人、今トライしている人たちを応援するメディア「マーケの現場から」。今回、ザキヤマは、EC事業への挑戦を続ける久保さんに話を伺いました。
(記事編集/しあわせ販促工房 窪田てるみ)

企業名株式会社マルイリフードサプライ(静岡県焼津市)
業種魚卸、飲食事業
URL焼津港丸入商店公式サイト
焼津港丸入商店公式通販サイト
姉妹店「まぐろ専門店まぐろのみなみ
マーケティングサロン
入会時期
2022年11月
久保さんの
ナイストライポイント
・新規事業への挑戦
・販売停止と再開の決断
・パートナー企業の探し方とマインドセット

※2025年6月時点の情報です。

創業百年をむかえるマルイリフードサプライのフラッグシップ店舗「焼津港丸入商店」。みなみまぐろと漬け魚が絶品。

EC事業、楽天モール出店へのトライ

焼津港丸入商店・久保真也さん。日々店頭に立ちながら、丸入商店の事業を推進している。

ザキヤマ:
久保さんが今、主に取り組んでいることについて教えてください。

久保さん:
一番は楽天市場をはじめとする、EC事業です。

ザキヤマ:
EC事業、インターネットを使った通信販売ですね!

久保さん:
リアル店舗の焼津港丸入商店としてのブランド力を活かしていきたいんです。

丸入商店の商圏でいうと、平日は静岡県の焼津市周辺と、静岡市から浜松市ぐらいまで。土日になると、県外の人たちに来ていただけています。

このお客さまとのつながりが切れてしまわないような仕組み作りを、弊社の伊牟田や外部パートナーと話し合いながら、リアル店舗に入れているんです。

(※当日の取材に伊牟田さんも同席してくれました。)

ザキヤマ:
「つながりが切れない仕組み」ですか?

久保さん:
そうです。一回お客さまになってもらってから常連になるまでと、常連になったあと、どうやってつながり続けていくのか、システムで支える仕組み作りですね。

この土台は、実店舗の開業時に自分たちが最初に立ち上げて設計していきました。途中から、静岡マーケティングサロンの仲間でもあるよっしーさん(ありかた代表の片井義之さん)にも伴走してもらいながら、構築しています。

なぜそれが必要なのかというと、立地が悪いからなんです。

ザキヤマ:
丸入商店さんのリアル店舗の場所が、ということですね。

久保さん:
そうです。焼津駅からも遠くて、車で行かないと不便な場所ですから。歩いている人が1人もいないような通りです。

リアル店舗の開業前は「そんなところに店を構えて人が来るはずないじゃん!」との声もありました。そんな立地なので、どうやってお客さまに来ていただき、つながりを維持していくかを、システムで支えていこうというイメージです。

実店舗を構える魚卸がEC事業にトライするワケ

丸入商店のお食事処「波なれ」。連日ランチでにぎわっている。
「本当に美味しい魚を全国の皆さんに食べてもらいたい」と語る久保さん。
併設のお土産コーナー。おいしい魚や丸入商店が厳選したお土産が並ぶ。

久保さん:
今年6月に、オープンして2年が経ちますが、リアル店舗で仕組みづくりをずっとやり続けてきたおかげで、成果が出てきています。お客さまに結構来ていただける状況にはなってきたんですね。

とはいえ、めちゃくちゃ黒字化ってことでもないんです。

なので、当初からインターネット販売への思いは強かったんですよ。インターネットで販売することによって、自分たちの商圏が地域から全国に拡がるわけじゃないですか。

ザキヤマ:
そうですね。飛び越えられますから!

久保さん:
リアル店舗のブランド力を高めたその先の、出口をどこにするか?と考えたときに、インターネットで販売してみたいという考えがありました。

ただ、自社ECを含めて広告を入れていなかったこともあるんですけど、一昨年12月の時点での売上は思ったほどではなかったんですね。

ザキヤマ:
なるほど、まだまだ課題も多いと。

リアル店舗で人気の漬け魚「焼津糀漬」。自宅用はもちろんギフトで買っていただけるお客様も多い。

久保さん:
となると、全国に拡げるためにはどうしたらいいかってことで、昨年の1月ぐらいから楽天モールへの出店を考えはじめました。

パートナー企業選びについても、ザキさんに聞いたりしてね。マーケサロンのメンバーにも紹介してもらったりして、10社ぐらいの候補が挙がったんです。

そのうちの1社と組ませていただくことになって、昨年9月に楽天市場店をオープンすることができました。

ただ、そういう会社さんは商品をプロデュースして売るのは得意領域なんですけど、作って梱包して送る部分、バックオフィス業務の構築は専門ではないので、調整がなかなか大変でして…。

9月の敬老の日前に販売を始めたところ、あまりに売れすぎてしまって、ビビってすぐに閉めてしまったんです。

「あっ、これは無理だ。」って。

ザキヤマ:
なんとっ、閉めてしまったんですね!

久保さん:
商品のセットアップ、発送業務が追いつきませんでした。このまま売り続けても現場がパンクしてしまうだけだから、泣く泣く閉めました。

ザキヤマ:
届けられないと、クレームになってしまったりしますからね。

まさかの販売停止からの、怒涛の3か月

怒涛の三か月、毎日がトライ&エラーでした。

久保さん:
でも、一旦閉めたあとに、さあどうしていこうかとなりますよね。ここから怒涛の3ヶ月が始まったわけです。

ザキヤマ:
どんな感じの3ヶ月でしたか?

久保さん:
まずはいっぱい注文が来すぎてしまって処理しきれない問題。これをなんとか解決する必要がありました。

いただいた注文の分類対応が間に合わない、伝票の発行が間に合わない、商品を間違えて送ってしまいそうになる、ギフト用の熨斗が足りない…。問題が山積みです。バックオフィス業務がまったく間に合っていませんでしたね。

ザキヤマ:
それは大変な状態でしたね!

久保さん:
今となってはECの基本的なところもできていなかった状態でお恥ずかしい話です……。

ECでの販売は、受注したら2~3日後には発送しなきゃいけないんです。2~3日間しかない中で、1日に200〜300件が入ってる。もう、送れなくなったら終わりみたいな世界です。

ザキさん

EC業務の仕組み化・システム化について、ザキヤマが解説します。

大きく3つの対応が必要だったそうです。受注管理、在庫管理、出荷管理、この3つです。

受注管理では、購入者の注文内容に基づいて、「この商品なら倉庫A社」「この商品は丸入商店」のように、どの倉庫にどの商品を出荷依頼するのか自動で割り当てしてくれるイメージです。

「在庫管理」は販売する商品の管理です。ここが機能していないと商品が足りなくなってしまったり、逆に作りすぎてしまったりしてしまいます。

「出荷管理」では、商品を梱包して宅配の伝票(送り状)を発行して出荷、出荷完了したら購入者の方へ自動で連絡がいく、このような一連の流れの仕組み化です。

久保さん:
そこで、バックオフィス業務の問題を解決するために、ネクストエンジンという受注や出荷を一元管理してくれるシステムをまず紹介してもらい、導入しました。でも、ただ入れるだけでは全然使いこなせなくて。

ザキヤマ:
そうなんですか!?

久保さん:
やっぱりカスタマイズが必要でした。ネクストエンジンはEC事業者にとって頼れるシステムなんですが、現場に合わせてカスタマイズしなければ、本来の力を発揮できません。

自分たちがどうしたいかという条件を設定して、よっしーさんに作ってもらいながら「Aの時はどうする」「Bの時にはこうする」と一つ一つカスタマイズしていったんです。

ただ、それでも、自分たちで梱包して発送するには量が多過ぎました。限界値を超えてしまったんですよね。自分自身も毎日のように冷蔵庫の中に入って梱包対応を続けていましたが、このままではマズいと思いました。

なので、マーケサロンで聞きました。「こういう商品の、梱包から発送まで対応できる会社さんはいないですか」って呼びかけたんです。

マーケティングサロンのチャットで相談する、久保さん。

ザキヤマ:
覚えていますよ!

久保さん:
紹介してもらった企業さんに発送業務を移管ができたのが、昨年12月の中旬でした。年末にさしかかる、ちょっと前ぐらい。

待ったなしの状況でしたので、9月末に楽天モールでの販売を再開して本番稼働をしながら同時並行で移管を進めました。

ザキヤマ:
なんと、販売を続けながら移管していったんですね!

久保さん:
そうなんです。本番稼働の裏で何度もテストを重ねながら、進めていきました。結果として、12月が終わってみたら、5,000件くらい出荷できてたんです。これらが、パートナー企業さんや仲間と一緒に、怒涛の3ヶ月の間でやったことです。

力を貸していただいている方々のおかげで、トライを続けることができています。

ザキヤマ:
いやー、すごいっすね。ナイストライです!

久保さん:
マーケサロンのおかげでやりくりできてるって感じですよ!マーケティングの領域以外にも色々な専門分野の方が力を貸していただけるので、マーケサロンって「ルイーダの酒場」みたいですよね(笑)。

ザキヤマ:
確かに(笑)。ドラゴンクエストで仲間を集めたり、情報を得たりする重要な場所のことですよね。「これできる人いる?」みたいな。

久保さん:
そうそう(笑)!

ザキヤマ:
マーケサロンには各専門分野の強者がいるので、「それだったら僕できます!」みたいな。

久保さん:
遊び人しか来なかったりして(笑)。

ザキヤマ:
いやいや、遊び人が一番強いですからね!

久保さん:
賢者になれますからね(笑)。

ふるさと納税は2025年9月30日でルール変更が予定されている…!

ザキヤマ:
こうしてマーケサロンから新たなナイストライが生まれて、自分のことのように嬉しいです。

久保さん:
ありがとうございます。とはいえ、まだまだ道半ばなんです。少しづつ目標に近づけていると思っていますが、課題も多いです。おいしい魚を全国の方に届けられるように頑張ります。

ここからが本当に大事な局面だと思っています。

新たなナイストライが生まれて、自分のことのように嬉しいです。

久保さん:
12月の5,000件が見えたときにちょっと余力があったんですよね。これならいけるんじゃないかってことで、よっしーさんにも計算をしてもらったところ、月間1万セットくらいは問題なく対応できそうなんです。

ザキヤマ:
受注から梱包、出荷する体制が整ってきたってことですか。

久保さん:
整ってきました。

ザキヤマ:
販売する魚は、十分にあるんですか?

久保さん:
魚はあります。例えばふるさと納税でたくさん配送しています。

ザキヤマ:
焼津市といえば、まぐろやネギトロなどのふるさと納税が人気ですからね!

久保さん:
なのに、なぜ自分たちでECに力を入れ始めたのかという理由の一つが、ふるさと納税にあるんですよ。今年の9月にふるさと納税のルール変更がありまして、ポイントが付かなくなるんです。

ザキヤマ:
そうなんですね。

久保さん:
ふるさと納税は、焼津市の出店しているショップの中で注文を受けて、弊社に注文が来る流れなので、人のふんどしで相撲を取っているようなものなんです。

それに総務省がやっている施策だから、いつ無くなってもおかしくない。そういう怖さがリアルに出てきています。

ザキヤマ:
売上が左右されるリスクがあるわけですね。

久保さん:
実は5〜6年前の自分が入社する前に、弊社でも、ある魚がかなり売れていたらしいんです。それが、ふるさと納税の3割規制に変わった瞬間に、注文がゼロになってしまったんですよ。

ザキヤマ:
ええっ!

久保さん:
そういった痛みの歴史をふまえている会社だからこそ、ふるさと納税の注文があるうちに、それに代わる売上・利益の柱をしっかりと作っていかなくちゃいけない。

モール出店も、自分たち自身で、自分たちの事業(ドメイン)で売れる仕組みを、ふるさと納税がある今のうちに作っていこうという理由からなんです。

それを実現するためのメンバーの一人として、弊社スタッフの伊牟田には、期待しています!

伊牟田さん:
がんばります!!

ザキヤマ:
伊牟田さんのプレッシャーもなかなかでしょうが、期待をかけてもらってるのは、嬉しいですよね。

なぜ、魚の卸がBtoC販売に挑戦しているのか?

今年2025年に創業百年をむかえる魚卸、マルイリフードサプライ。

ザキヤマ:
マルイリフードサプライは丸入商店や姉妹店まぐろのみなみのBtoCの飲食事業をやりつつも、メイン事業は卸業ですよね。売り上げの比率としては、どのくらいなんですか。

久保さん:
圧倒的に卸業の方が上です。他の事業者と同じように、卸売の方が、利益率は低くなります。BtoBとBtoCの違いですよね。弊社がBtoCを頑張る理由の一つは、そこにあります。

ザキヤマ:
売上としては、90%対10%ぐらいで元々の本業の方がはるかに大きいけれども、新規事業に力を入れてる背景には、業界の未来を見据えた強い思いがあるんですね。

久保さん:
弊社のような業態の場合、BtoBをベースにしながら、BtoCがBtoBをけん引していけることが理想です。

ザキヤマ:
BtoBとBtoCの相乗効果が大事ということですね。

おいしい魚を全国の方に届けられるよう頑張ります。

(後編に続く)

ザキヤマが、あなたの悩みの入口になります。

静岡マーケティングサロンは実践者のナイストライを後押しして、実践者同士が生の事例や悩みを共有し「これってみんな、どうしてる?」を聞ける居場所です。

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