「ゼロから独立する同世代が羨ましかった」――社内9割反対の挫折から12年。お菓子卸のアトツギが泥臭く掴んだ自社のビジョン #老舗お菓子問屋・山口毅雄の挑戦 前編
「実は僕、東京から静岡に戻ってきた当初は、家業を継ぐつもりなんて全くなかったんです。」
静岡県でお菓子卸シェア1位を誇る「大黒屋」のアトツギ取締役、山口毅雄(たけお)さん。
静岡のソウルフード「さくら棒」の復活や、発売初月で3万袋を売り上げた「静岡弁まるだし ばかうまい!ポテトチップス」など、次々と話題のヒット企画を生み出す異色のアトツギ経営者です。
今でこそ経営方針発表会で12年越しのビジョンを掲げ、社員と一丸となって突き進むたけおさんですが、ここに至るまでの道のりは「ゼロから起業する同世代へのコンプレックス」と「社内9割から反対される泥臭い葛藤」の連続でした。
「おぼっちゃん」と呼ばれた苦い挫折から、経営者として覚醒するまでの12年の軌跡を、ザキヤマが迫ります!
| 話を聞いた人 | 山口毅雄さん(株式会社大黒屋 / 株式会社大黒屋商事 取締役) (通称たけちゃん) |
|---|---|
| たけおさんが今、挑戦していること | 大黒屋を日本でオンリーワンの価値創造会社にする |
| この記事のポイント | ・独立する同世代への羨望と「親がBと言ったらBに…」理不尽との向き合い方 ・社内9割反対!子会社で強行突破した28歳おぼっちゃんのしくじり ・起業家=フェザー級、アトツギ=ヘビー級。アトツギの戦い方とは? ・12年越しに経営方針発表会で掲げた自社のビジョン |
| 事業内容 | 菓子の卸売業、菓子の企画・製造・販売 |
| たけおさんのマーケティングサロン入会時期 | 2020年10月 |
| URL | 株式会社大黒屋、大黒屋商事(静岡県藤枝市) |
※取材時点の情報です。
このページの目次
「あいつらは自由でいいな」――独立する同世代へのコンプレックスと、家業の理不尽さ
ザキヤマ:
たけちゃん(山口毅雄さん)との出会いは2018年頃。まだ静岡マーケティングサロンができる前、僕がコワーキングスペースでくすぶっていた時代からの付き合いですよね。

当時からたけちゃんはクラウドファンディングをやったり新しい挑戦をしていましたけど、東京から静岡に戻って実家に入って、もう11〜12年くらいですか?
たけおさん:
そうですね。大学卒業後は東京で働いていて、最初は実家に戻る気も継ぐ気も全然なかったんです。
でも東京で自分の内面と向き合う中で「家業で挑戦してみるのもありかな」と思って、母に「楽しいよ」ってうまく誘われて(笑)、20代後半で藤枝に戻ってきたのが始まりでした。

ザキヤマ:
僕らの周りって、ゼロから起業して自分の意思だけでスピーディに事業を立ち上げたり意思決定したりする同世代の経営者も多いじゃないですか。
アトツギとして社内の根回しや摩擦に直面していた当時、そういう起業家たちを見て葛藤することはなかったんですか?
たけおさん:
めちゃくちゃありましたよ!「羨ましいな」って本気で悩みましたし、正直なところ…嫉妬もしていました。
「あいつらはあんなにスピーディに自分の意思で意思決定してやってるのに、なんでうちは自分がAと言いたくても親がBと言ったらBになっちゃうんだ……」って。
当時は社長(父親)や上司に「もっと意思決定早くしてくださいよ!」って直接ぶつけて大喧嘩したことも何度もありましたからね(苦笑)。
ザキヤマ:
直接ぶつかっていたんですね(笑)。
たけおさん:
でも、うちの親ですから、ぶつけると当然ケンカになります(笑)。当時はまだ代表権もありませんし、やりたい想いはあるのに社内を動かせないジレンマで、本当にもがいていた時期でした。

社内の9割から大反対?子会社で強行突破した28歳「社長の息子」のしくじり
ザキヤマ:
そのジレンマの中で強行突破したのが、あの「さくら棒」のクラウドファンディングだったわけですね。
たけおさん:
そうです!静岡のソウルフードである「さくら棒」を復活させたくて資金集めのクラファンを企画したんですけど……もう、社長を含めて社内の9割から大反対されましたからね!(笑)
ザキヤマ:
社内の9割から!?なんでそんなに反対されたんですか?
たけおさん:
僕のプレゼン能力が低かったのもあるんですけど、当時はまだ「クラウドファンディング」っていう言葉自体が社内で理解されなくて。
「クラファン?なんだその怪しいネットビジネスは!詐欺でもやる気か!」って本気で疑われたんです(笑)。当時は社長も専務も70代でしたから、説明すればするほど泥沼にはまって……。
ザキヤマ:
当時はまだクラファンの認知度も低かったですからね(笑)。

たけおさん:
それで最終的にどうしたかというと、本社で話が通らないので「じゃあ子会社でやっちゃえ!」って子会社の事業として強行突破したんです。完全に若気の至りですね。
「東京からおぼっちゃんが帰ってきて、何か無理やり怪しいことやってるぞ」って、社員さんからの見られ方も最悪で…。目標を達成して有言実行はできたんですけど、そこで今度は僕自身が調子に乗ってしまったんですよね。
権力はある程度あるのに、立場は現場の下というよく分からない「扱いづらいおぼっちゃん」。社員さんとの関係値も最悪で、当時は社内でケンカばかりしていました…。
僕ら老舗は「ヘビー級」――アトツギが悟った重たいパンチの打ち方
ザキヤマ:
自分の意思で走れる同世代の起業家への羨ましさと、社内での孤独な衝突。そこからどうやって意識が変わっていったんですか?
たけおさん:
ある時、ボクシングに例えて考え方をガラッと変えたんです。

ゼロから始める独立起業家たちは、フットワークが軽くてスピードがある「フェザー級」。一方で、歴史や社員、既存のアセットやしがらみを抱える僕ら老舗のアトツギは「ヘビー級」なんだって気づいたんです。
ザキヤマ:
フェザー級とヘビー級!
たけおさん:
そうです!スピード勝負でヘビー級がフェザー級に勝てるわけがないんですよ(笑)。
じゃあヘビー級はどうやって戦えばいいかというと、じっくりガードを固めて「一発で効く重たいパンチ」を打ち込むことです。
そのためには、まず自分自身の姿勢を整えること。僕が本気で本業に向き合っていないと、社員さんはすごく敏感に察知します。
社内研修や対話を何度も重ねて、社員さんがどう考えているのかを聴き、お互いにリスペクトし合える関係(ガード)を何年もかけて作っていったんですよね。
12年越しに経営方針発表会で掲げた「自社のビジョン」
ザキヤマ:
社内と向き合い、ガードを固め続けた12年。それが先日の経営方針発表会につながるわけですね。
たけおさん:
そうです。社内の主要メンバーが集まって研修を重ね、今年の経営方針発表会でついに自社のビジョンを発表することができたんです。
『大黒屋初のオリジナル企画を発信して、日本でオンリーワンの価値創造会社になる』
これまでは「お菓子卸としてどれだけシェアを取るか」ばかり考えていましたが、これからは「自社の企画力」で勝負する会社になるんだという方針を、12年かけてやっと経営方針に載せることができました。これは僕の中で大きな達成感がありましたね!

ザキヤマ:
「ゼロから独立した奴らが羨ましい」と葛藤していた28歳のおぼっちゃんが、12年かけて自社のヘビー級の強みを活かす覚悟を決めたんですね。
最高にかっこいいです!
たけおさん:
ありがとうございます!
それで、その「ヘビー級の重い一発」として社内から生まれたのが、あの初月3万袋ヒットのポテトチップスであり、ピンチから生まれた直売所だったんですよね。
後編に続く:「まず打席に立て!」3万袋ヒットを生んだ年間10個のトライと失敗を恐れない愛の告白理論 #老舗お菓子問屋・山口毅雄の挑戦 後編
(記事編集:しあわせ販促工房 窪田てるみ、記事企画・ディレクション:ありかた 片井義之)
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